小児科医・言語聴覚士の方が書いた本のご紹介です

 東京の西側、西東京市にことばの相談室があります。
今回ご紹介するのは、その「梅村こども診療所相談室」の小児科医・言語聴覚士、梅村浄(うめむらきよら)先生の、『こどものことばは暮らしから生まれるーことばの遅いこどもの育ち』です。

ことばのうまれるダイナミズムを感じる

 この本には、障害を持つ子、障害を持たない子、たくさんのこどもとそのことばの様子が書かれています。ことばがうまれ、はぐくまれる様子が繰り返し、生き生きと描かれており、まるでその場面に言語聴覚士として居合わせたかのようです。

  ことばと眼

 (中略)
七ヶ月を過ぎたなあちゃんは、じょうずにお坐りしています。なあちゃんに学生が黄色い帽子をさし出します。なあちゃんは帽子と、それを手にしている学生の眼を代わるがわる見ました。
 「これは何?」
 「どうやって使うの?」
 何度も、何度も、眼できいています。
 (中略)
二ヶ月経ったら、なあちゃんは手渡された帽子を両手で頭の上に高く持ち上げ、すっぽりと頭にかぶりました。思わず、まきおこる皆の拍手。なあちゃんには帽子は、頭にかぶるものだってことがわかったんですね。

 まさにこんな場面に立ち会えた人はとても幸運と思うことでしょう。
 教科書ではそれぞれ、「共同注意」、「事物の機能的操作」と呼ばれています、こどものことばが芽ばえる場面です。


小児のSTさんはセラピーのお部屋で、どんなことをするの?

 言語聴覚士にこれからなる人も、言語聴覚士としてお仕事を頑張っている人も、臨床実習で見る以外に、ほかのSTさんのお仕事の様子をみる機会ってそうあることではないですよね。言語聴覚士の臨床は基本的には個室で行われることもあり、「自分のやっていることってもしかしたら、他のSTさんと全然違うんじゃ・・・」と不安になることも、ときにはあるのではないでしょうか(筆者はありました)。

  ことばが遅いこども

 (中略)
 ことばが遅いこどもが、お母さんと一緒に、初めて受診して来ました。
 私は「これならいっしょに読めるかな?」と考えて、あらかじめ選んでおいた絵本を机の上に広げます。
 (中略)
 そっぽを向きながらきいている子、絵本の中のりんごやおにぎりを、手に取って口に持っていくふりをしてにっこり笑ってくれる子、かばくんの遊び道具を指さしながら「でんしゃ」「ボール」と答えてくれる子、「ぞうくん、こんにちわ」とあいさつしてくれる子、すぐに飽きて椅子から立ち上がり、部屋に備え付けの手洗いの水道へ寄っていく子と、さまざまです。
 この短い時間に、ことばの育ち方に大まかに当たりをつけます。
 このように、日々の臨床で起こる出来事が詳しく書かれています。初めて来てくれるお子さんと親御さん、お悩みを抱えてきてくださるのできっと不安でいっぱいのことでしょうけれど、言語聴覚士の私たちも「どんな子が来るんだろう・・・」、「来てよかったと思ってもらえるかしら・・・」とドキドキの一場面です。

出生前診断、早期療育、悩みは尽きません

 臨床家であれば多くの方が、「わたしのやっていることってほんとうにその子や親御さんのためになっているのかしら」、ひいては「世の中のためになっているのかしら?」と考えたことがあるでしょう。
 梅村先生は小児科医で、言語聴覚士でもあり、そして障害を持つ子のお母さんでもあります。さまざまな立場から世の中をみて、そして目の前のお子さんにとってよいことは何か、考えるヒントを与えてくれます。

   早期発見っていいこと?

 (中略)
 ことばの遅れが一歳半まで見つけられないのは、良いことかもしれないと思うことがあります。ことばの遅れを、一歳前にはっきりと疑うお母さんはいませんし、乳幼児健診をしている医師もそれほど細かく見てはいません。誰も何も言わないので、お母さんは赤ちゃんを、生き物としてありのままに可愛がって育てることができるからです。その時間はある程度、長い方がいいのではないかと私は思っています。

 出生前診断や出生時のスクリーニングが充実してきつつあり、医療の高度化によりこれまで救えなかった命を救えるようになりました。発達障害者支援法が施行され、昔とくらべると支援の手が届くことが増え、「発達障害」についての世の中の関心が高まりつつある昨今です。臨床家として、ひとりひとりが限られた資源のなか、「必要な支援とは」を考えていく必要があるでしょう。
 そんなときに、ヒントをくれる一冊をどうぞ、お手に取ってみてください。