映画『メッセージ』とは?

 突如出現した未知なる飛行体―。
“彼ら”は人類に<何>を伝えようとしているのか?

予告動画:Youtubeより
『メッセージ』公式ウェブサイト: http://www.message-movie.jp/

言語学を題材とした物語

 映画『メッセージ』は、言語学者が主人公の物語です。未知の飛行体が世界の12か所に突如として現れ、主人公である言語学者が宇宙人と対話をするために呼ばれます。映像の美しさや物語としての面白さもさることながら、サイエンス・フィクションのなかでも異色の、「ことば」や「コミュニケーション」を題材としている作品であることから、言語聴覚士や言語聴覚士を目指す人にとって必見の一本であることは間違いないでしょう。

あらすじ

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 突如地上に降り立った、巨大な球体型宇宙船。謎の知的生命体と意志の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、“彼ら”が人類に<何>を伝えようとしているのかを探っていく。その謎を知ったルイーズを待ち受ける、美しくそして残酷な切なさを秘めた人類へのラストメッセージとは―。
(引用:公式ウェブサイトより)

 主人公であるルイーズ教授は、実践言語学の学者・大学の教授の仕事をしています。彼女の学者としての功績を買われ、軍に依頼されたのはなんと宇宙人との対話———。彼らは人間とはまったく異なる姿をしており、持っている発生発語器官も異なります。そんな地球外生命体の話す言語の体系を分析し、彼らと対話を試みることはできるのか…。  実際にご覧になっていただければと思います。

見どころは?

未知の物体、宇宙人の書く文字など非現実的で幻想的な映像

 映画全編を通して、物悲しいような、そしてどこか懐かしい雰囲気が流れます。なんといっても見どころは、映像の美しさ。未確認物体である宇宙船の不思議な重力の仕組み、空間をつくる壁の雰囲気など、異質で非現実的な空間に魅力があります。また、なんといっても、謎の生命体であるヘプタポットが描き出す文字のシーン。文字の造形そのものが流麗で美しいものとなっています。アジアの書道・カリグラフィーを意識しているとのことです。その美しさに注目してみてください。

切ない回想シーン、そして感動のラストシーン

 現実の世界では仕事に没頭する主人公、そして徐々に警戒態勢を強めていく非常事態のアメリカや諸国の緊迫感が描かれます。それらと対照的に差し込まれるのが、娘と主人公の会話シーンです。ネタバレを含みますので詳しくはお伝えできませんが、会話、対話がテーマとなる本作品。母と娘のやり取り、言語学者と未知の生命体とのやり取り、どちらも見どころです。

ことばがまったく通じない相手とのコミュニケーション

 未知の生命体はヒトや地球にいる生命体とはまったく異なる姿形をしています。我々人類と発声発語器官に共通する点はなにもないようですが、彼らもまた音声言語を持っているようです。そして、主人公は、彼らが文字言語をも、また持っているのではないかと気づきます。文字を手掛かりに使用したコミュニケーションで意思疎通を試みるのです。
 この辺りのプロセスでは、外国に行ったことがある人であれば外国の人とのコミュニケーションを、子どもを育てたことがある方は子どもがことばを学んでいく様子を、そして我々言語聴覚士であれば、言語聴覚両方を通して出会うたくさんの方とのやり取りを思い出すかもしれません。主人公のルイーズ教授が、彼らの反応を記録し、精緻に分析を繰り返すことで、限られた情報から答えを導いていく様子は胸が熱くなるものがあります。

映画『メッセージ』を3倍楽しむために。予習・復習しておきたい言語学の知識

 映画『メッセージ』は、言語学の知識をもとに描かれたシーンが多くあります。言語聴覚士のみなさんは、養成校時代や国家試験の勉強をしているときにどこかで聞いたことがあるキー・ワードが登場します。復習しておくと、より一層、映画を楽しむことができるでしょう。

サピア=ウォーフの仮説

 言語学者、エドワード・サピアとベンジャミン・ウォーフ二人の名前をつけられた仮説です。普段、言語によってものを考える私たちが、使用する言語によって考え方や概念の在り方が規定されているという説です。この仮説は「言語相対論 linguistic relativity」と呼ばれており、映画を理解する大きな鍵となります。同じものを見たり、聞いたりしても、ことばが違えば、そのものの見方(認知)や解釈に違いが生じるのではという問いが投げかけられます。

言語の線状性 linearity

 人類が使用する世界の言語にはある共通点があります。それは、どの言語もあらわされるときには一列に並ぶということです。この性質を言語の線状性 linearity といいます。それは、言語が音で表されること、語が配列される順序により文の意味や法則が形作られていくことなどのためです。ただし、これは人類の場合。我々のような発声発語器官や視覚・聴覚器官を持たない未知の生命体の言語は果たしてこの線状性を持っているのでしょうか。そして、この線状性という性質、「時」や「時間」も共通して持つものであることが、物語の鍵となります。

音声言語と文字言語

 ことばのモダリティについてです。音声言語は聴覚に、文字言語は視覚に、それぞれが対応しますね。作中で主人公はまず音声言語を使用したコミュニケーションを試みます。そして、次第に文字言語を併用してコミュニケーションを取る方法を模索していきます。

表音文字と表語文字、そして映画の中で語られる表義文字とは…?

 世界中で使用されているさまざまな文字体系は、大きく2つに分類することができます。1つは表音文字 phonogram といい、個々の文字が音を表しているもので、代表的なものにはアルファベット、ひらがなとカタカナがあります。もう一方は表語文字 logogram といい、個々の文字が一定の意味を持った語に対応しています。代表的なものには漢字がありますね。余談ではありますが、表音文字はさらに2つに分類することができます。アルファベットのように個々の文字が個々の音素に対応している場合を単音文字、個々の文字が個々の音節に対応している場合を音節文字といいます。
 さて、映画に登場する未知の生命体が使用する文字体系はこのどちらの文字でしょうか。答えは映画本編でご確認ください。

ぜひ原作も読んでみて!

 映画では映像美やストーリーのエモーショナルな部分に比重が置かれています。それはそれで素晴らしいものですが、原作小説においてはさらに言語学、認知言語学の詳細な記述を読むことができます。このような専門的な水準でかつ、物語としての面白さを実現している作品は実験的で、そして言語学の分野においてはとても貴重なものでしょう。個人的には、映画を見てイメージをふくらませたあとに小説を読むほうをオススメします。ぜひ併せてお読みください。

原作書籍:『あなたの人生の物語』(早川書房)
作者:テッドチャン