失語症とは

 失語症は、ことばを理解したり、話したりすることが難しくなる障害です。聞いて理解する、話すのほかに、文字を読む、文字を書くことも難しくなります。脳の言語中枢(言語野ともいいます)やその周りが損傷を受けることにより起こります。社会の高齢化や医療技術の高度化に伴い、増えているこの失語症。目に見えない障害であるがゆえに見えにくい、あまり知られていない障害のひとつです。

どんなことが原因で起こる?

 脳の障害で生じる障害ですので、多くは脳卒中とよばれる脳血管障害(疾患)が原因で起こります。代表的な脳血管障害には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血があります。また、脳血管障害以外では、脳炎、脳腫瘍、頭部外傷(交通事故や転倒・転落により頭を強く打った)、てんかんにより生じることがあります。

治療を受けると治るの?

 脳血管障害は脳を通る血管が塞がれてしまう、血管の壁が破れて周囲の脳細胞がダメージを受けてしまう状態です。脳の神経細胞はダメージを受けてしまうと基本的には完全に元に戻るということはありません。多くの人は後遺症が残ります。現在の医療技術では、薬や手術などにより治すことは難しいです。例外的に、脳腫瘍で腫瘍を治療した場合、一過性の脳虚血発作(TIA)が治まった場合などは脳の中で血流が回復し、ことばの症状が大きく改善することがあります。ただし、その場合にも慎重な経過観察や再発防止につとめることが必要です。

リハビリをするとよくなる?

 発症後しばらくはリハビリを継続することや周囲の理解や支えなど、環境を整えることでゆるやかに回復が続きます。多くの人は入院し、医師の治療を受けながらリハビリも行います。医師の治療の必要が無くなると、リハビリテーションを専門とする病院へ転院することや、自宅に退院して通院でリハビリテーションを受けるなどの選択肢をすすめられます。発症後約半年を過ぎると失語症の回復はおだやかになっていきます。ただし、根気強くリハビリテーションを続けると回復は続くことがわかっています。また、病院から地域社会に戻り、障害を抱えながらも生活を整えるために専門家の支援を受けられるとよいでしょう。

どんな症状なの?

 ことばには、聞く、話す、読む、書くの4つの側面があります。これらの4つの側面がすべてにわたり障害される、というのが失語症の定義です。また、計算にもことばを使うため、計算も障害されることが多いです。
  •  聞く症状には、きこえているのに音がとらえられない・区別できない、音がとらえられるのに意味と結び付けられない、きいたことばの意味を考えているあいだ頭に浮かべていられないなどがあります。 
  •  話す症状には言いたいことばが出ない、言いたいことばと違うことばを言ってしまう、わざとでないのに同じことばを続けて言ってしまう、発音が歪んでしまうなどがあります。 
  •  読む症状には、文字を音読できない、音読できるけれど意味と結び付けられないなどがあります。 
  •  書く症状には、字が思い出せない、漢字の部首や濁点の点の数など字の形の一部をまちがってしまうなどがあります。失語症のタイプによっては、漢字を書いたり読んだりすることよりも、ひらがな・カタカナのほうが難しい場合もあります。医師や言語聴覚士の助言を手掛かりにするとよいでしょう。 

リハビリはどうやってはじまるの?

 失語症のリハビリテーションはさまざまです。近年は病院にいる言語聴覚士が増え、早期介入による訓練治療効果(エビデンス)が認められていることから、入院直後にベッドサイドでリハビリがはじまることもあります。
  医師の診察とおなじく、まずは問診(インテーク)や状態を知るための簡単な評価 (スクリーニング)から始まります。インテークは失語症の人ご本人とご家族からも行います。そして、必要な情報が揃ったら、今度はことばの状態を知るために言語検査を実施します。いくつか言語検査がありますが、代表的なものには「標準失語症検査SLTA」があります。聞く、話す、読む、書く、計算の各項目に渡って検査の問題が用意されており、失語症のことばの状態を全体的につかむことができます。総合的な検査で全体像をつかんだあと、さらに詳しく調べるために細かな検査をします。
  そして、一通りのインテークや検査を終え、失語症の人やご家族・キーパーソン(その人にとって重要な人)に対して、わかったことや今後の方針について説明があります。
   

どんなリハビリをするの? -リハビリは機能訓練だけじゃない!

  さまざまなリハビリ・訓練の手法がありますが、ざっくり分けると次のふたつになります。
  • 障害に直接はたらきかける訓練
  • もっている力や強みを活かして障害を補う訓練
 前者は言語聴覚士が絵カードやプリントをみせて、問題を出し、それを解いていくような訓練です。機能訓練と呼ばれています。訓練室で机を挟んで一対一で行い、いかにも訓練のような感じですので比較的イメージしやすいのではないでしょうか。
 後者は、幅広い取り組みが含まれるのでひとことでは言い表せませんが、非常に大切なものです。代償手段といって障害された能力を代わりに補うものを探します。たとえば、言えないことばを指で指せるよう、個人の使い勝手のよいコミュニケーションノートを作成するお手伝いをしたり、携帯電話の絵文字を使う練習をしたり短縮ダイアルを操作する練習をするなどがそうですが、必ずしもすべての人に当てはまる方法はないので、個別の支援が必要です。また、環境調整といって、リモコンの必要なボタン以外を厚紙で覆って隠し使いやすくしたり、よく行く近所の商店やコンビニ、交番などに失語症であること・お願いしたい対応などを伝えることで失語症の人が地域で買い物をしやすくなるよう支援することなどがあります。社会ではことばを使ってコミュニケーションを取るので、ことばの障害をもつと多くの人は社会参加が難しくなります。そこで「失語症友の会」といった同じ障害を持つ人が悩みを共有したり情報を得たりできる自助団体を紹介する社会参加支援も訓練のひとつといえるでしょう。

 実際には、両者の訓練を組み合わせて行っていくことになります。機能訓練はすぐには効果がみえにくいですがコツコツ続けることで脳を刺激し、生きている脳の神経をつなぐ役目をします。ただし、いたずらに難しすぎる・簡単すぎるものを行ってしまうとモチベーションの低下につながることもあります。ときには息抜きや気持ちの支えとなるもの、ことば以外の活動に目を向けていくことも大切です。